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朱夏 

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熱界雷 (さのちづ)

残暑お見舞いに…



熱界雷


間が悪い。
昇降口を降りようとした、瞬間を狙ったかの様に。
大粒の雨がコンクリートを濡らし、ざぁと、音を立てて降り出した。

朝の天気予報では,夕立の予報は無かった。
ロッカーに置き傘はあるけれど、それは携帯用の小さな折りたたみ傘。
この激しい土砂降りでは、とても役に立つとは思えない。

止むまで待つより仕方ないと諦めて、教室に戻ろうとしたその途中。
薄闇の廊下の窓全てが爆音のような雷鳴に震え、空を裂く光が映った。
「きゃぁっ」
思わず指で耳をしっかりと塞いで、しゃがみ込む。
恐怖から逃れたい一心で、ただただ小さく身体を丸めた。
嫌い…嫌い。大嫌い。
嫌ぁっ、怖い…。
ぎゅっと目を閉じ,祈る。
誰か助けて。

「どうした?、大丈夫か」
震える肩をいきなり掴まれても。
怖さよりその暖かさが嬉しくて、飲み込んだままだった息をふっと吐いた。
「原田先生」
彼がいつ、ここに来たのか、全く気付かなかった。まるで漫画か映画みたい。助けてと願ったら…突然現れた。
「雷が…」
肩をすっぽりと包む手。安心して耳を塞いでいた指を離す。
と同時に、ひと際、大きく雷鳴が響いた。
「きゃぁぁぁぁぁ」
思わずがむしゃらにしがみつく。と、ぐっと更に強い力で抱き締められた。
「大丈夫だ」
耳の奥に直に注ぎ込まれる、安心を約束する低い囁きに心が跳ね踊る。
離れなきゃ…。でも…駄目。離れられない。
まだ…
「怖けりゃそのまま目ぇ閉じて、耳を塞いでいろ」
察しの良さを驚きながら、言われるままそれに従う。

…いい子だ。
ふわり。包み込まれたまま、
運ばれて。

ゆっくり目を開いて、運ばれた先が準備室だと気付いた。
抱いた腕を緩める事なく、彼はそのまま椅子に座る。
下ろされた、柔らかくはない腿の上は不安定で。
バランスを取ろうと無意識に開きかけた足を、慌ててぎゅっと閉じる。
「もう大丈夫です」
「鳴り止むまでは、このままの方が安心だろ」
「そんな事…」
無い、と否定するはずだったのに。
止む事の無い雷鳴に怯え、つい胸元を掴んでしまう。
「無理すんな」
これ以上聴こえない様にと、右の耳を塞ぎ。
胸に閉じ込める様に押さえ込む彼の手に密着した頬が上気し、微かに湿り気を帯びてくる。
暑いはずなのに。ざわっと背筋を逆撫でする矛盾に、心も身体も引っ掻き回されて。
だから震えが止まらない。

全身の力を込めて、自ら封じた視界。
彼によって、遮断された音。
奪われた感覚を取り戻そうと、焦り出した身体は。
背中をそっと支える腕と、胸の間にあって。
無意識に、左半身に伝わる彼の呼吸に合わせて緩やかに揺れている。

怯えていたことは、いつしか忘れていた。
意識は全て、彼に集中している。

抱き込む腕から力が抜かれ、耳を塞いでいた掌がぺらりと剥がされる。
あっ…
彼の胸から顔を離し、そっと目線を上げれば。
見下ろす、色彩の薄い彼の視線とぶつかる。
「なんて、顔をしてやがんだ」
くっと、吹き出した笑いを喉で止めようとして押さえ切れず。
彼は肩を震わせてて笑いだす。
私の体が腿の上で不安定に揺れ,ずり落ちそうになるのを、もう一度しっかりと抱き止めてくれた。
「わ…、笑うなんて…」
「悪りぃ。魂抜けたような顔、してやがるから」

抜けたような、ではなく。
きっと惚けて、ぽかんと開けたままの口から、本当に魂が抜けていたのかも知れないと思う。
完全に,あの瞬間。全てがまっさらにリセットされていたのだから…。

「もう…降ろして下さい」
気恥ずかしさで一気に上がった熱で、今は真っ赤になっているだろう顔を見せたくない。
大きくかぶりを振り、わざと身体を捩って暴れると、すでに二人分の重みを支えるのに限界だっただろう椅子が、ぎしぎしと嫌な音を立てた。
「判ったっ。判ったから落ち着け。でないと落ちるぞ」
とんとんと、背中を軽く叩いて諌められ、私はようやく大人しくする。

だけどな…
囁きと同時に、一瞬、唇を熱が翳める。

そぅっと降ろされて。
私の重みに床がぐにゃりと歪んだように感じる。
足に力が入らないせいか、ふらついて、彼のシャツの袖を握った。
辺りは何の音もなく。
静かだ。
…その時初めて、雨が上がっている事に気付いた。

                (終)



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