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朱夏 

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輝夜 (斎千)

【 汀 亭 】樺原 恵 様から頂きました。




「輝夜」 


 


 ――月の美しい夜。
           
 
 時折、私達は静かに寄り添って、飽くことなく闇を照らす温かな光を見つめていた。

 手と手を繋ぎ、肩と肩を触れ合わせて、互いの温もりだけを熱源に、肌寒い夜を過ごす。

 二人の間に流れるのは、穏やかな沈黙。そして、遠くから微かに聴こえる美しい虫の音。

 ちらちらと瞬く星の光を楽しみながら、思いついたように頬を擦り合わせた。まるで仔猫がじゃれ合うように、すりすり、と滑らかな肌に己の肌を重ね合わせる。

 彼の喉から、くすぐったそうな声が漏れて、その甘やかな声に、私の胸も甘く蕩けていく。
           
 (・・・大好き)

 声には出していないのに、その言葉が届いたかのように彼が優しく微笑んだ。そして、私の頬に軽く口付けてくれる。
 その心地よい感触に思わず瞳を閉じると、頤に手がかかり、唇に柔らかなものが押し当てられた。そのまま、深い口付けを交わす。

 幾度も角度を変えながら、互いの唇を味わう。渇いた喉を潤すかのように、性急で余裕のない口付け。
 僅かな隙を縫って過ごす刻を、互いへの愛で埋めようと激しく求め合った。

 愛しい人と過ごす大切な時間。月明かりに照らされた、互いの体。交わる二つの腕。二人が一つになり、やがて離れる、恍惚の一瞬。

 (愛しています)

 彼の頬に両手をあてて引き寄せた。そして、想いの全てを注ぎこむように口付ける。

 (誰よりも、愛しています)

 愛せば愛するほどに、何故か涙が溢れてくる。切なさが心を満たし、その欠片が透明な雫となって、私の頬を止め処なく濡らしていく。

 吐息が闇を揺らし、その音に合わせるように、彼の体もゆらゆらと揺れて、私の体も、その波のような動きに流されていった。

 「千鶴・・・」
 熱を秘めた声で、彼が私を呼ぶ。

 「何故・・・泣く」

 唇が涙を啜っていく。その感触に無上の喜びを感じながら、彼への愛を言葉に変える。

 「・・・分かりません。ただ、あなたが愛しい。愛しくて、切なくて・・・想いが溢れて止まらない。・・・どうしてなんでしょう。愛しさで一杯になると、涙が出てくるんでしょう?・・・ねぇ、どうして」

 問いかけは、唇を塞がれて虚空へと消えていった。そのまま、互いの全てで愛を語り合う。



 「千鶴・・・愛している」

 「私も・・・愛しています」

 「お前が愛しくて、苦しい」

 「あなたを想うと、切ない」
           

 遥か昔の歌垣のように、互いへの愛を囁き合った。自分の心を言葉にすると、ほんの僅かしか伝わらない。だから、恋人達は互いの全てで己の愛を伝え合う。言葉を補うように、互いの身を触れ合わせ、熱を交わしても、心の全ては伝えきれない。
           
 

 「千鶴・・・千鶴」

 「一さん・・・」

 「どこにも行くな。ずっと傍にいてくれ」

 「私はいつも傍にいます。・・・死が二人を別つまで、ずっと共に」


 彼は私の瞳を覗きこみ、言葉の真実を確かめるように、じっと見つめてきた。

 「一さん・・・?」
 その思い詰めたような色に、ふと不安になる。

 「どうか・・・しましたか?」

 囁きながら、彼の髪に手を伸ばし、優しく梳った。

 「月を・・・」

 「・・・え?」

 「月を見ていると・・・時々、不安になる」

 「月・・・ですか?」
 「それが美しければ美しいほど・・・恐ろしくなる」

 「どうして・・・?」

 彼は、苦しそうにくびを振り、私の体を強く抱き締めてきた。
           
 

 「昔、母に教えてもらった、月の姫の話が頭から離れない。美しい月の姫は、沢山の公達と帝に求められても、けして頷かなかった。彼女は月の世界の住人だから。・・・天上の人だったから。地上の男の愛に応えないまま、空へと還っていった」

 「・・・それがどうして」

 「お前は・・・鬼の姫だから。その血筋に悩み苦しんでいるのは知っている。でも・・・もしかしたら、同類を求めるのではないか。風間のいう通り、人の醜さを嫌ってあの男と共に去っていくのではないか、と詮無い事を考えてしまう」

 言葉と共に、腕に込められる力は痛いくらいで。苦しければ苦しいほど、彼の心の闇が透けて見えるようだった。



 「愛しているから苦しい。羅刹となった俺の命が、どのくらい保つのか分からなくて恐ろしい。・・・お前に哀しい思いをさせるなら、一人にしてしまうなら・・・あの男と共に行かせるのがお前の為になるのではないかと思いながらも、手を離すことができない」

 そう言いながら、首筋に縋りつくように顔を埋めてきた。その背は細かく震え、指先は強く握りすぎて冷たくなっていた。


 子供のように不安に怯える彼の姿に、心の奥底から愛しさが溢れてきた。滾々と湧き出でる清水のように、尽きることのない愛情。私への愛ゆえに悩み苦しむ姿は、どうしようもなく愛しくて・・・。



 額の髪を掻き分け、白く滑らかな額に、そっと口付けをした。そして、顔を上げた彼の頬を両手で挟みこみ、瞼に、鼻筋に、頬に・・・唇に辿るように口付けていく。

 唇で長い間留まってから、静かに体を離した。
           
 

 「欲しいのは、あなただけ。他には何も要りません」

 そう言いながら、彼の胸にそっと頭を寄せた。

 「共に生きたいのは、あなただけなんです。他の誰も代わりになんてならない」

 甘えるように、頭を擦り付けた。

 「・・・私の為を思ってのことだとしても、もう二度と、そんな哀しい事は言わないで下さい。・・・私を離さないで」

 両腕を伸ばして、愛する人を強く抱き締める。腕の中で震える彼を、慈しむように、優しく。彼を苛む不安が、少しでも消え去るように、背をゆっくりと撫で続けた。



 しばらくの間、彼は身じろぎもせず私の腕の中にいた。少しずつ穏やかになっていく呼吸を聞きながら、月がゆっくりと空を駆ける様を見つめていた。
           
 

 (私は空に還ったりしない。・・・ずっと傍であなたを見つめていたい)
                 
 彼が顔を上げ、空を見上げた。白々と輝く月を、挑むように見つめている。強く、激しい眼差し。闘うことを知っている男の目。

 彼は魂に潜んだ情熱を瞳に宿したまま、私を強く見つめてきた。

 魅了されずにはいられない、美しい眼差し。いつの間にか絡み取られた私の心。

 知らず知らずの内に、二人の距離が近づいている。見えない力で引き寄せられるかのように。

 睫が触れ合い、くすぐったさに笑みが漏れる。そのまま、くびを傾けて唇を合わせた。



 「千鶴、お前を愛したい」

 首筋の黒子を唇で辿りながら、彼が囁いてきた。その愛撫に身を任せながら、陶然とした声で微かに頷く。

 「・・・月が落ちるまで、愛して下さい」

 「還らずに傍にいますから・・・、いつまでも」



 その言葉に彼は微笑み、一度月を見上げた。そして、残り少ない時間を惜しむように、私の体を強く抱き締めたのだった。

                                              



                                         了
 


 
一生懸命選んだ言葉でも、想いを伝えるというのは本当に難しい…。
伝え切れないもどかしさと、それを埋めるように互いを求める二人が切なくて。

静かで優しい時間をいつも頂いております。
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【汀 亭】 管理人/ 樺原恵 様

汀亭様


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