FC2ブログ


朱夏 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



残照 (沖千)

【 汀 亭 】 樺原 恵 様から頂きました。





                          
 「残照」





 橙色に染まった太陽の残り火を、じっと目を逸らさずに見つめていた。

 一日の中で、地上を照らす光を真っ向から見つめることが出来るのは、山の端に消え行くほんの僅かな間だけだ。

 緋色の空と、滅するように輝きを失っていく天の焔。

 褪せていく光を見つめていると、胸底にしまい込んだ寂しさがいつの間にか寄り添っていることに気付いて、微かに苦笑を浮かべた。

 落ちゆく日ともに噛み締める寂寥を、舌の上で飴を転がすように味わう。微かに冷たくて、ほのかに甘い。

 初めて彼女に口付けた時も、同じ味がした。

 「生きたい」と願うことも、「死にたい」と願うことも、どちらも切実な強さをもって、心を揺さぶってくる。
 愛する女を腕に抱き、与えた熱で潤む瞳と鮮やかに色づいた唇を見つめている時、心の奥底から湧き上がってくるのは、「ともに生きて、ともに死にたい」という万華鏡のように様々な色が入り混じった、複雑な願いだった。

 心は覗くたびに模様が変わり、自分が生を望んでいるのか、死を望んでいるのか時折分からなくなる。

 ――そして、今も。

 膝の上で安らかな寝息を立てている、愛してやまない女の艶やかな黒髪をさらりと撫でた。

 残照を浴びて、紅にそまった肌にそっと指を這わせると、微かに身じろいで少し体を丸め、溜息のような寝息を漏らした。

 「ゆっくりお眠りよ。君が望むだけ、こうしててあげる」

 囁く己の声は蕩けるように甘い。彼女の温かさに生の喜びを感じつつも、細く頼りなげな首筋に両手を伸ばし、そのまま力を込めたくなる衝動も同じくらい強く湧き上がってくる。

 夕陽が彼女を血のように赤く染めていた。緋色を纏った彼女は眩暈がするほど美しく、甘美な殺意に煽られるように、薄紅色の細いくびに震える手を伸ばした。

 「…好きだ。君が好きでたまらないんだよ、千鶴」 

 そっと両手を首筋へと回すと、彼女は微かに笑みを浮かべながら身を預けてきた。

 彼女はきっと目を覚ましている。そして僕の願いにも気付いている。生と死の狭間で揺れる僕と同じように、彼女もまた、遠くない未来に起こりうる別離を思って、心を揺らしているのだろう。


 頬に冷たさを感じて、己が泣いていることに気付いた。

 夕陽で赤く染まった世界はどこか歪で、違う世界に迷い込んだかのような、そんな不安を感じさせる。


 ――逢魔時。


 人の心を狂わせる、異質な刻と空間。

 魔とはきっと、心に飼っている仄暗い感情のことをいうのだろう。

 誰しもが胸に抱える闇を、滅びを思わせる赤光が浮き彫りにし、目を逸らしてきた本心に気付かせる。


 「…僕と一緒に死んでよ」
 ぽつりと呟くのは、心に刻まれた願いの一片。死を望むのも、偽りない己の心。


 「いや、やっぱり生きてほしいかな。君らしく、強く…真直ぐに。…おばあちゃんになっても、きっと君は綺麗だよ」

 生を望むのもまた、同じくらい強く刻まれた願いの一つ。


 「…きっと、僕は怖いんだと思う。離れた後に、君の中で僕の記憶が時とともに薄れていくのが恐ろしくてたまらない。僕が滅びる時、君は僕の中で永遠になる。でも、生き続ける君にとって僕は過去へと変わっていく。…それが、とても怖いんだ。…人はいつしか死ぬ。ともに死んだとしても、それは体の時を止めただけに過ぎないのかも知れない。魂となってもともに居られるか分からないなら、僕は君に生きて欲しいと、そう望むよ」


 冷たい雫が、顎の先から下へと落ちた。魔の誘惑から逃れるように、冷たい涙を幾つも流し続けた。


「…愛している。僕は、君だけを愛している。揺れる心を抱えたまま、ずっと、永久に」


 その呟きとともに紅の時は終わりを告げ、辺りは宵闇に包まれた。微かに震える小さな体に手を伸ばし、そっと背を撫でた。その瞬間、彼女の目尻に淡い光を見た気がした。

                         
                                         了

   



                              

 
沖田さんは、多分、誰よりも千鶴さんがいないと生きては行けないように思います。
彼の強さも脆さも…切ない。

静かで優しい時間をいつも頂いております。
【汀 亭】様へはこちらから。
ご訪問の際は、マナーの厳守をお願い致します。
                
【汀 亭】 管理人/ 樺原恵 様

汀亭様
                               




▽コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

▽トラックバック

http://shuka1012.blog109.fc2.com/tb.php/398-fa2b93a2

 | HOME | 

プロフィール


みゃう

Author:みゃう
誕生日。総司の命日
原田左之助溺愛中

足し算よりも引き算の文字書き
重箱の隅を突いて丸くするのが夢





さの向上委員会


応援してますv


都々逸


ブロとも一覧



皓月庵


MAIL



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。