朱夏 

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融ける

【 汀亭 】水原恵様へ贈らせて頂きました。 








融ける


一人きりの部屋。
自分を見張る気配はあっても、掛けられる言葉は無い。

交わす言葉は少ない。
ごめんなさい。おはようございます。おやすみなさい。
それだけで足りる。
他は「はい」と「いいえ」を繰り返すのみ。
意思は伝えても、感情を伝える言葉はなく。
思いを封じるうちに。

ー 言葉を忘れた。

気付いたのは,原田だった。
「なぁ…あいつの様子、おかしかねぇか。幾ら何でも喋らな過ぎる」
朝餉を済ませ、自室に千鶴を戻した後で、まだ広間に残っていた皆に尋ねる。
「雪村君か?。いや…今朝もちゃんと挨拶を交わしたはずだが?」
近藤は、思い当たる節はないと首をかしげる。
「言葉が使えるんだからさ、話せないって訳じゃねぇよな」
「誰かさんが最初っから、殺す、殺すって脅かしたから怯えてるだけでしょ」
「余計な会話はしない、ということだったと思うが?」
誰からも肯定の言葉は無かった。
それでも、原田には納得出来ない。むしろ他の誰も気付かないのが、不思議でならないくらいだ。
本当は、気晴らしに一度、外へ出してやれりゃぁ良いんだろうけどな…。
さすがにそれは、今の状況では許さないことと承知している。
せめてもと。折に触れ、千鶴の気持ちが晴れる様にと試みる。

巡察の途中、目についた和菓子を土産に届けた。
包みを開いて勧めてやれば,おずおずと手に取った。
「京でも評判の店なんだ…といっても。俺は甘い物は苦手でよく判らねぇけどな。美味いか?」
こくりと小さな頷きだけを返されて、そこでお仕舞い。

季節の花を渡してやった時は、驚いた様に目を見張り、ほわりと笑った。
ほら、こんな顔だって出来るじゃねぇか。
安心したのも束の間。
「な、綺麗だろ?。ここらじゃこんな花が咲くんだぜ」
「…はい」
ひと言で会話が途切れ、簡単に無表情に戻ってしまう。

そして今日は小春日和。風もなく、何より日差しが暖かい。
「たまには、庭に出てみるか?」
行方不明の強力者の娘が現れた偶然を疑う者も、彼女自身は新選組に仇を為す存在ではないと思い始めた頃。
屯所内であれば、部屋から出してやっても差し支えは無いと考えたのだ。
思い掛けない原田の言葉に,千鶴の顔が輝く。
まぁどんなに丸め込んでも、小言は避けられねぇだろうな…と思いながら、原田は千鶴を中庭に連れ出した。
「ここなら滅多に誰も来ねぇから心配ねぇよ」
二人、並んで縁台に腰を下ろす。
…温けぇな。今日は本当に温けぇ。
原田は日差しを真正面に受け止め、相好を崩した。それにつられて、少しばかり笑ったかに見えた千鶴だったが、やはりまた俯いてしまう。
こんなにいい天気なのにな。お日様でも駄目か。
さて、どうしたもんか…。
所詮、自分だけが温和に接したところで通じねぇか。それでも…気長にいくより仕方ねぇか。
だって ー 放っては置けねぇだろ。
歳は十五と聞いた。まだ幼さも残る娘が、これほど頑なに心を閉ざしていると言うのに。

ぽたりと、小さな音を聞いた気がした原田は、
千鶴の膝の上に揃えられている手に落ちる涙を見た。
小刻みに肩が揺れる度に、堪え切れない掠れた嗚咽が漏れ出す。
「おい…どうした?…どこか痛てぇのか。苦しいか?」
自分の行為のどれが、泣き出す程、彼女を傷付けたのか。
思い付けない原田が狼狽える。

「嬉し…ん…です…」
ゆっくりと。しかし強く首を振ると、涙の訳を千鶴が伝える。
初めは原田の行動を疑心暗鬼で受けて止めていた。
何か下心がある筈。
ここには味方はいないと、出会った最初から宣言されている。今更、優しくされても、戸惑うばかり。そう簡単に信じられる訳が無い。
でも。
今、自分を包む日差しは、温かい。
この温もりの中にあれば。不安も悲しみも、何もかもが穏やかに溶けて消えると思える程。それほどまでに温かい。
この人は、
この場所へ,お日様の元へ連れ出してくれた。
自分を思い、察しようとしてくれたんだ。

ほこりと、つかえた胸に温かさが伝わる。
一度、涙を落としたら。止める術がなかった。

父親から留守を任されてからの記憶が一気に甦ったのだろう。
父親の帰りを心待ちに過ごした江戸での日々。
その父を案じて決意した、初めての一人旅。
京へ辿り着いた安堵もそこそこに、羅刹に襲われた恐怖。
さらに保護とは名ばかりの、窮屈を強いる軟禁生活。

怖い、嬉しい。苦しい。痛い。楽しい。切ない。嫌い。羨ましい。悔しい。ありがとう。辛い。悲しい。綺麗。好き…。
 
後から後から溢れ出す感情は。
押さえて,押さえて。生き延びる為に押さえつけて。
押し殺してきた『千鶴』そのもの。
もはや口を閉じることも出来ず。
言葉に出来ない音を喉に詰まらせながら、千鶴は泣き続けた。

泣かれて。
焦った原田は、咄嗟に胸の中に抱き込んだ。
すっぽりと収まってしまう、薄い肩の震えを支える。
ー こんな脆く小せぇ身体の中に。こんなに沢山詰まらせてたんじゃねぇか。
悟られまいと気丈に振る舞ってきた千鶴が切ない。
ー 馬鹿だな,無理しやがって…。
それでも、それが愛おしいと思う。

「大丈夫だ。苦しい時は続かねぇよ」
あやす様に背中を擦りながら言う,原田の言葉に。
千鶴はまだ不安げな表情を隠せない。
「信じろ」
な。
陽の温もりと,原田の熱に癒されながら。
信じたいと、千鶴は願った。







【 汀亭 】水原恵様から「左之さんを」とリクエストを頂きました。
 日頃の感謝を込めて…。













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Author:みゃう
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