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朱夏 

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薫風 〜原田家の日常   ✿End of 斎藤Ver ✿

ロカ様から頂きました。



 
薫風
     原田家の日常 ✿End of 斎藤Ver ✿


 
 朝、微かな異変のようなものを感じていなかったと云えば嘘になる。だが、起きた時には大丈夫だと思った。
 
 だから、いつも通りに起き上がり、朝食の支度をして、左之助を起こそうとキッチンを出ようとして方向転換をしたら、ふらりと眩暈がした。
 
 そのまま、意識がおぼろげになる。
 
 なんだろう、身体に実態感がこもらない。
 
 そうして、目の前が不意に暗くなった。
 
 いけない……。まだ鍋の火を落としてないのに、そう思ったのが千鶴に浮かんだ最後の意識だった。
 

 
 遠くから千雪がぐずっている声が聞こえる。宥めているのは誰だろう。優しい響きが聞こえているのは確かなのに瞳が開かない。
 
早く、起き上がってぎゅと千雪を抱きしめてあげなくちゃいけない。
 
 いつも、いつも、左之助が千鶴へそうしてくれるように……。
 
大丈夫よ、と言って笑って抱きしめるとまだ赤ちゃんだったころのような暖かいミルクのような匂いがする千雪。千鶴の宝物。
 
 左之助と千鶴が千鶴の大事な宝物だ。
 
 その大事な宝物が泣いている。泣かせてしまったのはきっと千鶴だ。
 
 最近、左之助から顔色が悪いと言われていた。
 
 何だか食欲も落ちていた。
 
 でも、急に暑くなってきたせいけだったと思っていた。
 
 だが、千鶴はいま消毒液独特の臭いがする場所で横になっている。右手に微かに違和感があるのは点滴を受けているからだろうか……?
 
 いま自分がいる所はどこなのだろう。
 
「………、………。ち…る、わか…か……」
 
 微かに身じろぎすると、大切な人の声が聞こえた。
 
「意識…、戻り…けて…………、だか…心配はない……う」
 
 今度、聞こえてきた声は父親である綱道の声だ。ここは実家の病院なのだろうか。ならば、千雪がここにいるのも納得が出来る。
 
「さ……けさ、ん」
 
 いまだにはっきりとしない意識の中で、千鶴は愛しい夫の名前を呼んでいた。
 
「千鶴!」
 
 その声の大きさに、今度ははっきりと意識が覚醒する。
 
 そうだった、朝食の支度をしていた時に眩暈がして……。
 
 まだはっきりとしない意識の中で瞳を開くと、左之助の切羽つまった顔を見えた。
 
「さの、……さん……」
 
 自分でも思い掛けないほどか細い声で名その名前を呼ぶと、力いっぱい抱きしめられた。
 

 
 千雪の大きな瞳は既に真っ赤だった。ずっと泣き続けて、今ではしゃくりあげているような状態だ。声もいくらかかすれている。
 
 当然だ。大好きで大事な母様が倒れてしまったのだから……。
 
 子供にとって世界の中心に等しい存在だ。
 
「母様、母様……」
 
 何度も呟いているのは大好きな母様の事だけだ。
 
 思えば、タイミングが悪かった。
 
 千雪が朝起きて、いつものようにこゆきちゃんと六花ちゃんへ御挨拶をして、最近では自分で出来るようになったお着替えをして、お台所へ行ったら母様がぐったりとして動かないでいたのだから……。
 
「父様! 父様!!」
 
 大きな声をお家の中では出してはいけませんと、ばぁばやじぃじ、母様と父様に言われていたけれど、千雪はそんなことは忘れてしまっていた。
 
 だって、母様がお返事をしてくれない!
 
「おっきして! 母様!!」
 
 小さなその手で母様を起こそうとした時、父様が慌ててキッチンまで走って来てくれて、そこからは千雪はよく覚えていない。
 
 父様がじぃじの所へお電話をしてから母様を抱っこして、お車に乗ってじぃじのお家まで来た。最初は千重ばぁばが千雪の傍にいてくれて、薫お兄ちゃんがお家の様子を見に行ってくれた。こゆきちゃんも六花ちゃんのことも千雪が忘れてしまったからだ。
 
 そうしているうちにお兄ちゃんたちが集まって来て、はじめちゃんが来てくれた所で千雪の涙の決壊が破れた。そこからずっと泣き続けている。
 
「大丈夫、大丈夫だ。ゆき、案ずることはない。母様は少し疲れていただけだと綱道のじぃじも言っておられたであろう」
 
 ここでは大きな声で泣きだすことも出来ずに、小さくしゃくりあげる幼子の背中を抱きしめて、優しくさすってやりながら斎藤が言う。
 
「はじめちゃん、母様は本当に大丈夫……」
 
 そう云う千雪の瞳に新しい涙が滲む。
 
「大丈夫だ。父様も綱道のじぃじも、薫お兄ちゃんもそばにいる。それにこれだけ皆がゆきの母のことを案じている。だから、大丈夫だ」
 
 こくりと頷くあどけない仕草に胸が痛んだ。
 
 休日だったことも幸いしたのだろう。いま試衛館の仲間がここに集合している。原田から連絡があってすぐ薫が沖田へと連絡を取り、沖田から全員へと連絡網が廻されたのだ。
 
 最初は千雪と皆で一度原田家へと戻る予定だったのだが、千雪が頑としてそれを拒否した。そんな頑固な所は両親にそっくりだ。
 
 そこで病院の控室を一室借りきって、千鶴の容体が安定するのを待っている状態だ。
 
「ゆきちゃん、おなかすかない? 皆でお昼ごはんを食べに行こうか?」
 
 朝も碌に食べてはいないと千重から聞いている。気持ちを切り替えるためにも、外に連れ出そうと大人たちが目くばせして互いに合図する。言いだしっぺは沖田だ。
 
「ゆき、おなかすいてない……」
 
 だか、返ってきた返事はこれだった。
 
「ゆきちゃん、きちんとご飯を食べると千重ばぁばとお約束したのではありませんか?」
 
 やんわりと諭すのは山南だ。こんな役割は山南のためにあるといって過言ではないだろう。
 
「けいすけおにいちゃん、母様も、父様も、ゆきよりもずっとおなかすいてると、ゆきおもうの。でも、父様も母様もおひるごはんたべてないもん。だから、ゆきもごはんはいらないの」
 
 自分よりもご両親の心配ですか……。山南は微かに微笑んだ。これは千鶴の教育ゆえだろう。だが、幼児に食事をさせないわけにはいかない。思わず、入らぬ口出しをしそうな面子を黒い笑みで黙らせると、山南はこう続けた。
 
「ゆきちゃん。父様と母様のお腹がすいていると思うのでしたら、私たちと一緒に父様と母様のお昼ごはんを買いに行きましょうか? 父様と母様が大好きなものをゆきちゃんが選んでくれたなら、きっとお二人は嬉しいでしょうね。それを食べれば、元気になれると思うのですが……」
 
 ある意味、正しい言い分であった。微かに千雪の表情が変わる。そうして、今もしっかりと千雪を抱っこしている状態の斎藤へ問いかける。
 
「はじめちゃん、ほんとう?」
 
 そこで斎藤へ確認をとるところが沖田には気に入らない所だったが、今回だけは譲ることにした。何しろ、千鶴の容態の詳しい話を聞かされていないのだ。いつもだったら薫経由で情報を得られるのだが、その薫が原田家から戻ってからは原田同様に千鶴へつきっきりなのだから……。
 
「あゝ、きっと喜ばれるだろう」
 
 それは千雪にとって優しくて暖かい笑顔だった。
 

 
 ぞろぞろと連れだって、車を使って近場のガレットの店へと向かった。
 
「けいすけおにいちゃん。ここで父様と母様のごはんがかえるの?」
 
 休日ともあって、たくさんの客で込み合っている店の様子に千雪が山南を見上げた。
 
「ええ、買えますよ。でも、どれを買ったらいいか、味を確かめなくてはならないですね。どうですか、ゆきちゃん。皆でなにを買って帰るのかをお味見して決めましょう。そうすれば父様と母様にゆきちゃんが選んだ一番おいしいものを食べてもらえますよ」
 
 山南のやんわりと微笑んだ顔に千雪がこっくりと頷いた。
 
 その様子に良かった、と安堵したのは斎藤だった。
 
 さすがだ! と思ったのは土方だった。
 
 こんな手があったとは、と臍を噛んだのは沖田だった。
 
 山崎と永倉、藤堂に至ってはなんとか落ちついてくれた千雪の様子に安心していた。
 
 やはり小さな子供が声もたてないようにして、泣いている姿を見るのは胸が痛む。いつだって千雪には笑顔でいてほしい。それが試衛館の皆の思いだった。
 

 
 ガレットの店では、大人たちはそれぞれに生ハムや卵、サーモンなど載ったものを選んだ。千雪はバナナとチョコレートのデザートガレットを斎藤と土方、山南で選んだ。カロリーもそれなりにあるし、後は少しずつ野菜が大目に入っている物を千雪へ分けて食べさせるつもりで大人はメニューを選んでいる。
 
 ほんわりと暖かな湯気をあげて、甘い香りのするチョコバナナのガレットがテーブルに運ばれると、千雪のお腹がグウーっと鳴った。
 
 いつもだったら、軽口に一つも出る所だが、今日はさすがにそのことを指摘するような者はいない。
 
「ゆき、早く食べなくてはアイスが溶けてしまうであろう」
 
 他の者へ遠慮しているのか、手をつけようとしない千雪へ斎藤が声を掛ける。
 
「それにきちんと味見をして選ばねばな」
 
「はい。はじめちゃん。えと、いただきます」
 
「はい、召し上がれ」
 
 いつもなら千鶴が言ってくれる言葉を今日ははじめちゃんが言ってくれた。
 
「……、……」
 
 千雪の瞳からまた新しい涙がこぼれた。いつも斎藤ならば慌てふためくところだったろうが、今日は違った。
 
「よしよし……。ゆき、泣きたいだけ泣いて構わぬからな。だが、お味見だけはしっかりせねば……」
 
 備え付けの紙ナプキンでその涙を拭ってやると、斎藤はしゃくりあげながら、それでも懸命にフォークとナイフを扱う千雪を切ない気持で見守っていた。
 

 
 そうして千雪はきちんと自分の分を食べ終わり、斎藤が選んだ荒引きソーセージとチーズのガレットを少し、沖田が選んだ生ハムのガレットをやはり少し食べさせてもらう。
 
 千雪が食べられたのはここまでだった。だが、これだけ食べれば充分だろう。大人たちは安心した。
 
 全員、一応に満足した所でテイクアウトに千雪が選んだのは斎藤が食べていた荒引きソーセージのガレットと千雪が食べていたチョコバナナのガレットをロールにしてアイスを抜いたものだった。
 
 おそらく千鶴は病院食になるであろうから、二つとも原田が食べることになるのだろうが、それを口にするものはいない。
 
「母様、おいしいっていってくれる、かな」
 
「あゝ、ゆきが一生懸命お味見して買った昼飯だから、ものすっごく喜ぶぞ!」
 
 断言するのは、藤堂だった。
 
「だな、じゃあ。大事なお昼が冷めないうちに帰らねぇとなぁ」
 
 永倉がそう云えば、山崎がこう冷静に付け加える。
 
「永倉先生。急いでいても安全運転でお願いします」
 
 微かな笑いが洩れた。
 
 あとは千鶴の件だけだ。
 
 それだけが重たい荷物のようだった。
 

 
 病院に戻ると、千雪は一番に千鶴のいる病室へと行きたがったが、それは祖父である綱道に止められてしまった。代わりに自宅へと行くように言われる。
 
 それにしょげかえる千雪が痛々しかったが、仕方がない。千雪自身の為にも入院棟へ行くことは望ましいことではないのだから……。
 
 千雪の代わりに土方が原田夫妻の昼食を届けに行き、千雪は心配と泣き続けで疲れたのだろう。斎藤の膝の上でうとうとし始めた。
 
「心配だよなぁ、かあちゃんのことさ」
 
 擦りすぎて、目に廻りも赤くなっている。
 
「本当。こんなに泣くゆきちゃんなんて、初めてみたよね」
 
 いつものような飄々とした言葉づかいでない。沖田にとっても千雪は大事な宝物なのだ。
 
「じきに原田が戻ってくるそうだ。詳しい話はそこでするって言ってたが」
 
 気配りが利く山崎が雪村家の客間に用意されている寝具からブランケットを引きずり出すと、寝入った千雪が風邪をひかないようにそっとかける。
 
 そうして千雪のたてる寝息だけが小さく響いていた。
 
 それにつられるように藤堂が船を漕ぎ始め、永倉がそれに続く。そうしてまるで眠りが伝線したかのように皆が規則正しい寝息を立て始めていた。
 
 その中心にいるのは千雪だった。
 

 
 どれぐらい時間が経っただろう。気が付くと、夕方になっていた。
 
 気が付くとはじめちゃんもお兄ちゃんたちも眠っている。千雪は周囲を見渡した。そして、
 
「おうちじゃない……」
 
 落ちついたはずの切ない気持がもう一度、溢れだしてくる。
 
「ゆ、き……」
 
 その時、斎藤が目を覚ました。
 
「はじめちゃん、ゆきのおうちじゃないよぉ……」
 
 ぼろぼろと涙を流して泣く姿。斎藤は思わず千鶴を抱きしめた。
 
「あゝ、お家に帰ろうな。いま、父様がここへくる。きたらお家へ帰ろう」
 
 斎藤にも覚えがある。子供のころに感じた切ない気持だ。
 
「泣いても構わぬ。ゆきが泣きたいときは、俺はいつも共に在るからな」
 
 斎藤の言葉は難しくて千雪には理解できない所もあったが、一つだけわかった。はじめちゃんの前では我慢しないで泣いてもいいのだと……。
 
 その時、玄関先から騒がしい声が聞こえてきた。それに千鶴の声が混じっている。
 
「母様!」
 
 飛び降りては走り出そうとした千雪を転ばせないようにブランケットへ包んだままで斎藤が玄関先まで急いだ。
 
 客間を出る前に眠りこんでいた藤堂と沖田の二人を悪気なく踏んづけて起こしてしまったことはまた別な話だ。
 

 
「ゆきちゃん!」
 
 千鶴はまるでより一層大事な宝物状態で左之助の腕の中に抱え込まれていた。
 
 ここで斎藤は千雪を下した。
 
 千鶴が左之助へ何事か小声で呟くと、その腕から解放された。
 
 そのまま千雪は千鶴の胸にぎゅと抱きしめられた。
 
「ごめんなさいね、ゆきちゃん。心配させてしまって、お目目がうさぎさんになっちゃったわね」
 
 その言葉にまた千雪の瞳からジワリと涙が浮かんだ。
 
「母様、ゆき……」
 
 皆まで言わせずにもう一度力一杯抱きしめる。
 
 そのまま、母と娘はしばらく抱き合ったままだった。
 
 後ろにはやけに嬉しそうな表情の面々(覗く薫)がいる。ここにはこれないはずだった近藤夫妻も姿を見せている。
 
 これは一体いかがしたことか……?
 
 斎藤の頭の上に大きな?マークが浮かんだ。そこへこの騒ぎに起き出してきたのだろう。試衛館の面子が顔をそろえた。
 
「千鶴ちゃん! 大丈夫なの!!」
 
 開口一番叫んだのは沖田だ。千鶴が千雪と同率首位なのは変わらぬらしい。
 
「はい。御心配おかけしました」
 
 千雪を抱き上げようとして所で、左之助がその役割を変わる。
 
 それに違和感を感じたのは、斎藤だけではなかったようだ。
 
「とにかく客間へ行きましょう。話はそれからでしょ」
 
 千重が満面の笑みでそういうと千鶴と左之助の顔が微かに赤くなった。
 
「「「「「???」」」」」
 
 首を罷免る面々に、独り納得したように頷く者一名。そして複雑でいささか不機嫌な状態になっている者が一名。
 
 取りあえず、詳しい説明は全員で移動してからということになったのである。
 

 
 千雪は千鶴と左之助の間に座ってやっと落ち着いたようだった。
 
 まだ涙の後もあり、目が赤いことにも変わりはなかったが、やはり親の存在は大きいのだと斎藤は思った。
 
「本当に今回は騒がせちまってすまなかった」
 
 まずは全員を前に原田が頭を下げた。
 
「あたりまえにことではありませんか。誰だって配偶者が倒れていれば、慌てるものですよ、原田君」
 
 面目ないといった感じの原田へそう声を替えたのは山南だ。
 
「いえ、私が今回は……」
 
 そこで千鶴が言い淀む。
 
「俺が言うか?」
 
「え、でも……」
 
 その様子に千雪がじれた!
 
「父様と母様だけわかっててずるい!」
 
 今日は散々泣いたのだろう。目を真っ赤になるほど泣かせてしまった娘に詰め寄られるのはやはり辛い。
 
「あのね、……」
 
「あのな、……」
 
 二人同時の告白だった。
 
「「赤ちゃんができたんだ(のよ)」
 
 目が点になっているのは、約五名。他の三名の内、一名はやはりそうでしたかと納得し、他の二名は今更のように左之助をじとろとした目つきで見つめている。(相変わらず往生際に悪いことである^^;)
 
「ゆき、おねえちゃんになるの?」
 
 千雪の顔に今日初めての満面に笑みが浮かぶ。
 
「ええ、そうよ。仲良くしてあげてね」
 
 さらさらとした千雪の髪を千鶴が優しい手つきで撫でる。
 
 それと同時に開いた窓からさわやかで心地よい初夏の風が祝福を授けるかのように、優しく皆の間を流れて行った。
 
 安堵に息を吐いたのは誰だろう。だが、何事もなくて良かったと心から思っていた。
 
 また新しい命が生まれ来る。
 
 こうして授けられる命に幸あれ。
 
 そんなことを願う斎藤だった。










ロカ様から、お見舞に頂きました。
 ほっこりとした原田家が大好きです。
 日々、常である事の有り難みをしみじみ感じます
 ロカ様、ありがとうございました



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みゃう

Author:みゃう
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