朱夏 

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ふたり


 水玉アコ様へ贈らせて頂きました








ふたり




「いいよなぁ、幼馴染みなら何でも話が出来るんだろ」
いい加減、聞き飽きた台詞だった。
「んな訳、ねぇだろ」
幼馴染みと言うだけで、全てを共有していると思われるのは迷惑極まりない。
「またまた、なに照れてんだよ。気持ち悪い」
「それより雪村って誰かと付合ってんの?」
何もかも知っていて当然と言わんばかりに、探られるのも鬱陶しい。
好きな奴がいるかどうかなんて。
「知るか、ばーか。俺が聞きたいくらいだ」
情けない事に、それは照れ隠しでも何でもなく事実だ。

共学校にも関わらず、ただ一人の女生徒。
誰もが千鶴に興味を持っている。
それと同じ位に。
たわいのない会話の端々に上るほど、自身も好奇の対象であることを平助は実感していた。

確かに。今の千鶴は可愛い。
異性であることを意識する事無く、がやがやと連れ立って遊んでいた頃とは違う。
後を追われて、ただ足手まといにしか感じられなかったのも嘘のようだ。
綺麗だなと見蕩れる時もある。

毎朝、平助は千鶴と登校する。
うっかり寝坊をした朝も、千鶴一人で先に行く事はない。
部活のある日の放課後は、帰宅までずっと一緒だ。
もちろん他の部員も交えてのことだが、それでも最後は二人きり。
「また明日」と挨拶を交わして別れるのは、並んだ家の門前。

変わらない日々を過ごしてきた筈。
いつの間に、何が変わったのか。
気付けなかった程、千鶴と近い位置に自分はいるのだと改めて思う。

それまで無意識でいられたものに意識を向けた途端、今度は全く逸らすことが出来なくなった。
千鶴と接する度に、身の置き所が無く落ち着かない。
ふらつく感情を持て余し、勝手に苛立って。またさわさわと、心が騒ぐ。その繰り返し。
薄々、思い至った理由も。
正しいのか、的外れなのか。全く判らない。




平助に誘われて、受験した。
同様に、剣道部のマネージャーを希望した。
「つまらない理由だね」と、部活中、沖田に嗤われた事がある。
「自分の意志では何も決められないの?」とも。
それは違う。きっかけは平助にあっても、自分の意志で全て決断した。
昨年。平助が高校に進学して、千鶴は中学に残された。
多数の友人に囲まれ、受験生として忙しなく過ごしていたにも関わらず、平助から離れていた一年間、常に寂しい思いを感じながら過ごした。
その理由を正しく理解したからこそ、ここにいる。
ただ、それを伝える時期がいつなのか。
あまりに当たり前に日々が過ぎて、千鶴には見当がつかない。


前触れは何もなかった。
「千鶴ちゃん?。平助なら朝練の時間が早くなったからって、今さっき出たけれど」
あら、やだ。あの子ったら。何してるのかしら…
平助の母親はぽかんと開けた口元に片手を当て、目を見開いたまま千鶴の顔を見つめている。
「えぇと…あの…、私が時間を勘違いしたのかも。ごめんなさい」
しどろもどろではあったが、それでも何とかいい訳を繋いで千鶴は平助の家を飛び出した。


こんなに遠かっただろうか。学校への道のりが果てしなく思えた。
一歩一歩、進める足が重くて、時々立ち止まっては、ぼんやりと考える。
思えば。確かにここ数日間の平助には散漫な態度があったような気もする。
私が何か気に障るようなこと、しちゃったのかな。
それとも。
…もしかして誰か好きな人がいるの?。


正門の前では、千鶴の兄が苛々していた。
平助だけがとうに通過し。千鶴の姿が見えないという非常事態。
追い掛けて問い質そうにも、妹の無事を確認するまでは絶対にここを離れられない。
千鶴は遅刻寸前にようやく登校してきたが、顔色が悪く、いつもの笑顔も無い。
ー 絶対に抹殺してやる…。平助への憎悪を膨らませた。


放課後の道場で、今日初めて平助を見かけた千鶴が、ほっとしたのも束の間。
気合いが足りないと顧問に怒鳴られた平助は、直ぐさま道場の隅に追いやられた。
原因はやはり自分なのだろうかと、千鶴が小さく溜め息を吐いた。

「意気地なしだねぇ。君から逃げたんだ」
「そんなこと…」
千鶴に関係のある噂はあっという間に広まる。
今朝、平助と別行動だったことも既に知れ渡っていたらしい。
「気にしなくていいよ。千鶴ちゃんが悪いんじゃないからさ」
どうせ悪いのは、アレでしょ?。
沖田が指差す先に、黙々と素振りを続ける平助の姿があった。
「一生懸命やってる様に見えるけど、まるきり上の空だよね。僕が君の隣で何を話しているのか、気になって気になって仕方ないのがバレバレ。何なら今から君の敵を討ってこようか?」
「止めて下さい。自分でちゃんと解決します。勝手な事はしないで下さい」
「ふうん。千鶴ちゃんでも怒るんだ。そっか安心した。でも泣く程の事じゃないでしょ」
沖田に言われて、初めて千鶴は自分が泣いている事に気付いた。
感情が高ぶって、抑えが効かなかったのかもしれない。
千鶴は、手にしたタオルを慌てて顔に押し付けた。
「裏門を抜けて真っ直ぐ。コンビニの角を左。大通りに出たら右ね。そうするといつもの通学路に行き当たるから」
「えっ?」
「このまま放っておいた方が僕としては面白いんだけど。君を泣かせたと知ったら五月蝿いのが多いからね」
あとはご自由に。
沖田はひらひらと手を振ると、何事も無かったかのように千鶴の元を離れる。


沖田の言葉を信じて。千鶴は教えられた道で平助が通るのを待っていた。
揺れる、癖のある歩き方。平助が近づいてくる。
「平助君」
突然、しかも思いも寄らない場所で千鶴から声をかけられた平助は、驚きと困惑の表情を隠せない。
「お前…なんで…」
「どうしても話がしたかったの」
目の前にいては、避ける事も逃げる事も出来ない。
平助は、ふぅと大きく息をつくと「一緒に帰ろう」と歩き出した。


「遠回りになるけどいいか?」と断ると、平助は大通りを左に曲がった。
歩道が狭く、二人並んで歩くのが困難で。
どこへ、とは聞かないまま。千鶴は、無言で先へ進む平助の後ろ姿に従う。
しばらく行くと、川沿いの遊歩道に着いた。小さな緑地帯もあり、ここならば通行人の邪魔する事も無く、話が出来る。

平助は黙って俯いたまま、千鶴と視線を合わそうとしない。
千鶴には聞きたい、知りたいことはいっぱいあった。
平助の気持ちを確かめなくては、前に進む事も出来ないことも判っている。
なのに。散々迷い。いざ、口を開いても言葉にならず。
想いを伝えられない悔しさに、千鶴は閉じた唇を噛み締めた。

釈明も弁解も無いまま、時間だけが過ぎて行く。
沈黙が全ての答なんだ…。
千鶴は平助に背を向ける。

暮れて行く空気が重く沈む。

千鶴が脆く消えてしまいそうで。
平助は咄嗟に、震える肩に腕を伸ばした。

消え入りそうな後ろ姿に倒れ込む様に。
千鶴の小さい背中に、平助は額を擦り付ける。
「離して」
「嫌だ」
聞き分けて。
嫌だ。

…駄々っ子。
…ごめん。
…どうして?
…でも、イヤだ。
噛み合ない、言葉の応酬。

「狡いよ。平助君」
しばらくして。腕を掴んだまま震える手に、千鶴の手が重なる。
「でも触れちゃったら…もう離したくないよ」
「俺もだ」
ゆっくりと引き寄せて、平助は千鶴を両の腕に抱き込んだ。
千鶴の背に、平助の胸に。互いの体温と鼓動が触れ、ゆっくりと染みていく。
「ずっと?」
「あぁ、ずっとだ」
ずっと。ずぅっと。

ー ずっと一緒にいよう。

ようやく重なった想いは、とても単純で。
どうして今まで伝えなかったのか、不思議に思う。
だからこそ、尚更。疎かにしてはならないのだと今なら判る。



翌朝。
手を繋いで、正門を駆け抜けた千鶴と平助の姿に。
昨日とは別の理由で、薫が悶々としていた。
可愛い妹に笑顔が戻った事は嬉しい。
だがその為には、平助が彼女の隣にいることが不可欠だと知ってしまったから。
「大変だねぇ…、駆除してこようか?」
「それが出来るくらいなら、自分でやってる」
煽る、沖田の冗談にも笑えず。
薫はギリギリ、奥歯を噛み締めた。










水玉アコ様へ。
ありがとうと。
お待たせしてごめんなさいの気持ちを込めて…。


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Author:みゃう
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