朱夏 

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多情



2012年11月、汀亭様発行「黎明」に書かせて頂いたお話です。












多情


出会いは最悪だった。
「見てはならぬ物を見た。だから漏らす前に消す」
判決は一方的で、情状酌量の余地もない。
それでも千鶴は何としても生き延びたかった。
こんな所で、訳も判らぬまま。「不運」のひと言で片付けられる訳にはいかない。
必死で繰り返す、命乞いの言葉が通じないもどかしさに感情が高ぶらせていく。初めて千鶴の胸中に憤りが沸き、心を波立てる。
初めから釈明の言葉に耳を傾ける気がないのなら、あの場で切り捨てれば良かったのだ。
ー多勢で嬲るなど、卑怯…
ー言葉が通じぬのなら、あなた達もあの化け物と同じ…
血肉を喰らう化け物が見せた、地獄のような光景。
あれを語ったところで、誰が信じるというのだろう。

そのひと言は。
ばさりと一気に、沸いた千鶴の熱を下げた。
「証拠も何も一目瞭然だろうが。何なら脱がせてみるか?」
言う事に欠いて、何を…余りに惨い。罪人扱いでも足らないというの?。
「最低」
千鶴の口から思わず漏れた非難の言葉は、原田を厳しく諌める近藤の声に消された。
「それが一番手っ取り早いと思ったんだが…」
一瞬、気まずい表情を浮かべたものの、すぐにまた平然と言葉を続ける。
この人は…怖い。
端整な顔立ち、赤銅色の髪。薄着から覗かせるしなやかな軀…。外見からは堂々とした印象しか感じられない。にもかかわらず、千鶴は原田に怯えた。


与えられたのは、一人きりの部屋。
あとは監視に添われて移動出来る範疇だけが、生かされた場所。
眠る、起きる。ただそれだけを繰り返しながら、行方知れずの父を思う。
連絡を絶って久しい。何処にいるのだろう。蘭方医は貴重な存在だと言う。それ故に無理難題を押し付けられているのではないだろうか。
持て余す日常の中で出来る事は空想を広げる事くらいだが、それすら情報が足りない。
彼らも「父を追っている」と言った。だが未だ行方知れずのままだ。
早く外へ出たい。自分の足で父を探したい。
望みがいつ叶えられるとも判らず、淡々と時間だけが重ねられていく。

出会いに受けた衝撃の深さから、付け入られる事が無い様、千鶴は常に毅然とした態度を緩めなかった。それにもかかわらず。
原田はするりといとも簡単に、気付けば千鶴のすぐ近くにいる。
千鶴の口数が減れば、柔らかく問い掛けて言葉を引き出し。
不安そうな顔をみせれば、幼子に接する様に頭を撫で、気を落ち着かせる。
届けられる差し入れの多くは、部屋から出る事を許されない千鶴に季節の移ろいを感じさせる気遣いがあった。
「最低で最悪」な出会いの印象とは掛け離れた原田の行動は、千鶴を大きく混乱させた。
一つ、一つ。
さらりと与えられる思いやりに幾度も触れるうち、心を震え上がらせた怖さも徐々に薄れている。
違う、違う。誤摩化されたりはしない。私は忘れていないー あの日深く傷付けられた事…。
なのに新たに刻み込まれていく記憶は、全てが穏やかで優しい。
どちらが本当の彼なのだろう。
今の自分は少し優しくされただけで、簡単に信じたくなる。甘えたくなる。
溺れた者が必死で何かに縋り付くようなもの。それほど弱っているのだ。
僅かな希望。それを信じたとして、間違いだったら…
冷たい氷も触れれば火傷と同じ痛みを伴う。それと同じ。

きちんとしよう。
まずはそこから。
千鶴は決意し、思考を止めた。


屯所内から音も消え、皆が寝静まった夜半過ぎ。
千鶴はそっと寝具から身を起こすと、そのまま静かに引き戸まで移動した。
桟に細い指を掛け、僅かに引き動かす。
「どうした?」
すぐさま反応した気配と案ずる声で、その夜の監視役が原田であることを確認する。
大丈夫…。
千鶴はひと呼吸、深く息を吐いて。細く開いた戸の間を強く見つめた。
「聞かせて下さい」
緊張したのは最初の一言だけだった。あとは。
「どうして優しくしてくれるのですか?」
「えれぇ唐突だな、そりゃ…」
「放っておかれても、私、逃げたりしません。なのに…。秘密を知っているからですか。父様を探す手がかりになるかもしれないからですか?。それとも他に何か…」
ー お願い。
教えて…。
その思いを封じることが出来ず。勢いのまま、取りすがる様に原田に答えを求める。

「手前ぇの目の前で女子供が泣いてる時に、優しくしてやろうとか…あれこれわざわざ考えたりしねぇよ。そんなもん、息すんのも一緒だろ」

損も得も無い。下心を感じさせない。
原田の言葉は真っ直ぐで。
千鶴を惑わせた優しさは「放っては置けない」原田の気質そのものなのだとすぐに知れた。
信じるに充分足りる優しさなのだと思う。
自分は原田の言葉に深く傷ついた。その事実を無かった事には出来ない。
けれども、だからこそあんなにも迷ったのだ。
心を揺らす優しさを知って、原田を憎み切れなくなった時点で既に、本当は答を知っていたのかも知れない。
…ずっと原田を信じたかったのだ。

「もう少しだけ、開けてもいいか?」
千鶴の答を待たず、原田は細く開けられた引き戸に腕をねじ込む。
「でもな。それでも助けてやりてぇんだよ。お前をさ」
差し伸ばされた手は千鶴を求めて、灯りの灯らぬ部屋の闇を探る。
やがて指先が千鶴の頬に触れ、捕らえると。
顔の造作を確認するかのように、そっと滑らせた。

「千鶴」と、原田が繰り返し名前を呼ぶ。
その声に千鶴は応えられなかった。
原田を信じると決めた。
けれど自分は女で。まだまだ庇護を要する子供だ。
原田にとっても擁護の対象であって。それ以上でも以下でもない。
だから、これ以上は甘えてはいけない。
まだ越えられない一線を残したまま。それでも少しだけ二人の距離が近づいた。









これが多分、一番自分の思う左之さんに近いと思います…


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